掛川のまとめ         まとめ   目次へ                    
広重図:タコが勢いよく揚がり、橋の上の腰の曲がった老夫婦が強風に飛ばされそうで難行している。
ところが橋の向こうから来る僧侶連れは、扇子を使ったり、額の汗を拭ったりしており、無風状態である。
橋の向こうとこちらは異次元の世界のようである。
別な説明では、「偉い坊さんに出会った老婆が最敬礼をしている」場面とされる。
鈴木重三ほか「保永堂版広重東海道五十三次」(2004岩波)では、この解釈を採っている。

ところがこの本は、広重図の人物の多くが、十返舎一九の描いた続膝栗毛口絵「道中ゆきかい図譜」をモデルにしているという鈴木重三氏の大発見が中心なっており、「腰が90度に曲がった老婆」のモデルもこの「道中ゆきかい図譜」にちゃんとあることから、最敬礼ではないことが明らかである。
   
一方、江漢図には、僧侶連れが描かれていないので、上記の「異次元」の矛盾はない。(上右図)
僧侶連れ(下左図)は広重が描き込んだものである。今にも何かやらかしそうな2人連れは、十返舎一九のもう一つのロングセラー「金草鞋」の主人公「ちくら坊と鼻毛延高」(下右図)である。

一九は1831年に死去し、その遺稿「金草鞋−相模路」が1833年に刊行されている。広重は「膝栗毛」よりも「金草鞋」時代の世代。
広重はこの五十三次画集でも、いろいろなところで(人物モデルや紀行文)一九の資料のお世話になっている。
十返舎一九と金草鞋の追悼」の気持ちを込めて、主人公の二人をこの図に描き入れたのであろう。
 
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