金草鞋 と 十返舎一九の自筆稿本 論考目次へ | |
東海道ブーム作った十返舎一九の東海道中膝栗毛は有名で、広重五十三次との関係はよく議論されるが、同じ一九の「金草鞋」はあまり知られていない。「金草鞋」は膝栗毛に次ぐ一九のベストセラー道中記である。 膝栗毛以上に「金草鞋」が広重東海道五十三次の成立に深く関連しているというのが、最新の発見である。 |
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左の年表から分かるように、広重当時はすでに「膝栗毛」ではなく、「金草鞋」の時代になっている。 ロングセラーとして東海道中膝栗毛はまだよく読まれていたが、読者が首を長くして次号の発売を待っていたのは「金草鞋」であった。 膝栗毛と金草鞋の違い ●膝栗毛と違って、金草鞋は街道を順番に旅するのではなく全国至る所に勝手に出没する。費用負担で一九を招待して、次回は是非うちをお願いしますという地元の誘致合戦もあって、取材も楽だったと思う。 ●膝栗毛には観光案内と旅先の失敗談という二つの面があったが、金草鞋は観光案内が主である。 旅の失敗談はタネ切れになり勝ちだが、観光案内の材料は現地取材でいくらでも得られるから、一九としては書きやすかったと思われる。 10数年間/24巻まで続いた金草鞋シリーズも、一九の死去(1831年8月)で終了し、最後の相模路編(22−23編)が、たまたま広重五十三次作成年の1833正月に刊行されている。 一九の人気シリーズ「金草鞋」もいよいよこれで見納めという時期であり、広重五十三次がこれを引き継いだような形になっている。 |
広重「掛川」の橋の向こうからやってくる僧体の二人連れは、単なる通行人ではなく何か意味ありげな人物である。江漢図にはないので、広重が付け加えたものである。 名所図会などを探し続けていたが、最初の数年間は、この二人のモデルらしいものがどうしても見つからなかった。 ようやく金草鞋の主人公(ちくら坊と鼻毛延高)らしいことが分かった。広重は「金草鞋」への追悼として、主人公二人をさりげなく登場させたものと思われる。当時の読者には、何の説明がなくても一目で金草鞋の主人公であることが分かったはずである。 |
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金草鞋の主人公 ちくら坊と鼻毛延高(のびたか)(二人とも東北の狂歌師) | 広重「掛川」の二人? |
映画「男はつらいよ」シリーズが主演渥美清の死去で終了したあと作られた追悼映画「虹を追う男」の終わり近くに、ストーリーとは無関係に、例のスタイルの寅さんが街角から姿を現わし思い入れのあと無言で立ち去っていくシーンを入れて「男はつらいよ」への追悼を表現した。それと同じ趣向と思う。 | |
★「保永堂版広重東海道五十三次」(2004岩波)では、「偉い坊さんに出会って最敬礼をしている図」を採っているが間違いである。(各論「掛川」参照) 腰が90度に曲がった老婆のモデルが続膝栗毛口絵にあることから、最敬礼ではないことが明らかである。 |
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金草鞋の人物が広重東海道五十三次に直接使われているのは、掛川(ほか1例?)だけである。 しかし下記のように、金草鞋稿本は続膝栗毛口絵に転用され、間接的に江漢/広重東海道五十三次の人物モデルとして多数使われている。 <金草鞋← 十返舎一九の稿本 →道中ゆきかい振 →江漢五十三次 →広重五十三次> |
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(1)金草鞋稿本→金草鞋製本 | |
東海道中膝栗毛の挿し絵は、全部一九の自画である。(下図) 十返舎一九は若いとき浮世絵絵画家を志ざしたほどで絵に自信がある。 |
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金草鞋の挿し絵は喜多川月麿だが、一九自画の稿本が残っている(東海道編)。 一九の稿本は、そのまま版木にしても良いくらい絵の構図、文の配置まできちんと指定してある。 |
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金草鞋(東海道編)製本 喜多川月麿画 | 十返舎一九の自画稿本 |
舞阪の渡し |
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「枠外まで突き出た富士」のアイディアはすでに金草鞋で使われている。 |
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(2)金草鞋稿本→道中ゆきかい振 | ||
発見 本が出来てしまうと、十返舎一九稿本の絵は不要になり無駄になってしまう。 江漢/広重の人物モデルにされた続膝栗毛口絵「道中ゆきかい振」は、次の例に示すように一九が金草鞋稿本の人物を再利用して描き直し、続膝栗毛新刊の付録として読者サービスしたものであることを発見した。 |
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上欄が金草鞋稿本(東海道編) → 下欄が再利用された続膝栗毛口絵(道中ゆきかい振り) | ||
行者の差し銭? |
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売薬? |
子守 |
独り旅− 荷物担ぎを連れない |
抜け詣り |
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道中ゆきかい振は、1813年刊行の続膝栗毛初版に付録として添付され、江漢の目に留まって江漢画帖(1813年後半)の人物として転用された。さらに1833年の広重東海道五十三次にもそっくり使われた。 | |||||
人物モデルの図解 金草鞋←←金草鞋稿本→→道中ゆきかい振→→江漢画帖→広重五十三次 (十返舎一九画) |
道中ゆきかい振・・・江漢/広重53次の人物モデル |