石部、二川、興津
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興津 興津川河口
岩山の先端を回り込んで海に注ぐ興津川
人物は東海道名所図会(安部川)からの借り物であることがすでに知られているので、検討する意味がないとして放っておいた。
現地のカシミールを撮ってみると、意外にも実在の風景がベースになっていることが分かった。

江漢図には実際の風景や山を精密に写生し、名所図会や空想の人物風景を重ね合わせたモンタージュがしばしば登場する。
興津川河口には、これと同じ岩山や中州が現存するが、狭い場所に背の低い橋や鉄橋が集中して海がよく見えず、土手も遊歩道になっておらず、河川敷にも下りられず、残念ながら風景写真がうまく撮れない。
S35年に、広重五十三次のうち十数枚が東海道名所図会のコピーであることを近藤市太郎氏が発見し、広重は東海道を旅していないのではないかという疑惑が生まれた。この相撲取りの川越え風景は、その発見のきっかけになったもの。

 

二川 かしわ餅や
東海道研究書によると、かしわ餅が名物だったのは二川ではなく、白須賀に近い猿ヶ馬場であり、それを二川に持ってきたのはよほど絵の材料に苦しんだためであろうと書いている。そこで猿ヶ馬場付近を探したら、果たして東海道沿いに江漢のスケッチ現場らしい地形が現れた。
手前の丸い原山、背景の山の稜線の形。
江漢は宿場にこだわらず、旅の途中で気に入った場所をスケッチしている。その時点では五十三次にまとめる構想ではなかった。
広重「二川」
東海道名所図会
「猿ヶ馬場−堺川(国境)より東、左右原山にして小松多し。風景の地なり。・・猿ヶ馬場の茶屋に柏餅を名物となす。」

広重は上記の「小松多し」を絵に描き込んだようである。
広重図の長尾根が二川駅付近(二川宿)に実在し、東海道線車窓からもよく見える。(上の写真)
江漢図と全然違う形だが、広重はこの長尾根の形をどこから入手したのだろうか。
江漢図には「柏餅」の文字がないのに、広重はどうしてそれを知ったのか。  広重五十三次の新たな謎である。
「広重、東海道を旅せず」の問題がクローズアップしてきている。「現地を見ないと描けない絵」の代表がこの二川であり、広重図だけを見ていると、広重は少なくとも二川まで来ていることになって、「東海道旅せず」説の大きな妨げになる。

 

石部  江漢図の背景の小山  
広重東海道五十三次の石部の田楽茶屋は東海道名所図会のコピーであることは美術界の専門家の間では有名。「広重が実際に東海道を旅したのかどうか」と言う議論の種になっている。
江漢図もまったく同じ図柄で、「旅の画家であるはずの江漢が何故東海道名所図会をモデルにしたのか」が、TV番組では「江漢画集の謎」とされた。

茶屋がコピーであることがはっきりしているのに、背景の山だけを問題にしても意味がないと思い込んでいたところ、カシミール3Dで東海道沿いの実在の山であることが分かって本当に驚いた。
江漢図には正確な風景と「借り物の点景」とのモンタージュが多い。
東海道名所図会との共通点(広重/江漢とも同じ)
茶屋の構造(小屋根、軒下に並ぶ小暖簾)、左手の土塀、日除けのすだれ、二股の樹木、竿に色紙をぶら下げた田楽の看板、人物群(浮かれて踊る人物、旅芸人らしい一行)・・・

日向山(にっこうやま)222m−和中散本舗庭園の借景

梅の木は、本来は「和中散本舗」が描かれるべき場所。
江漢は、適当な手本やスケッチがなかったため、「目川茶屋」で代用したらしい。
東海道を西から東に向かう旅で、草津から石部に向かう中間地点で、進行方向正面にこの日向山が現れる。
222mの小山(標高差は120mくらい)だが、東海道がすぐ山裾を通るため意外に大きく見える

地名は
梅の木、有名な和中散本舗(是斎(ぜさい))のあった場所。立派な庭園があり、日向山はその借景。
大名行列も休憩した(茶屋本陣)。

江漢図の梅林は地名からの連想であろう。
 
広重図「石部」 
広重図「石部」の茶屋と人物は、江漢図や東海道名所図会と全く同じで、東海道名所図会モデルの代表例である。
ところが背景の山は、和中散本舗付近から見た日向山(にっこうやま)であることが現地調査で分かった。(2003年9月大畠)
(広重図の山は、これまで比叡山の遠望など解説されていた。)

和中散本舗付近から見た日向山

「和中散本舗庭園」の説明板: 「日向山を借景とし・・」とある。

「栗東八景」の一つとして和中散と日向山が一体にPRされている。
江漢図と同じ山であるが、江漢図では左が樹木に隠れて山の形の特徴がよく分からない。広重図は江漢図のコピーそのままではない。
だからといって、広重が現地を訪問したとは思えない。二川と同じケースで、広重五十三次の新たな謎である。

 

手原駅付近の東海道家並み 和中散本舗(是斉) 石部駅前

 

石部(梅の木)付近で有名なのは、歴史や文学で名高い三上山(近江富士)と、大名行列が休憩する「茶屋本陣」で知られる和中散本舗であり、伊勢参宮名所図会/東海道名所図会にも挿し絵やくわしい説明文がある。
Q:何故、広重は(東海道を歩いていないとして、)利用できるモデルがあるのに、この二つを描かず、わざわざ場所の違う「目川の茶屋」とそれほど有名でもない「日向山」を描いたのだろうか。
A:答え−「あくまでも江漢図通りに描く」ことにこだわったためである。
伊勢参宮名所図会の「三上山」 東海道名所図会の「和中散本舗 是斉(ぜさい)」

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