由井の冨士                 目次へ   
海岸線を通る親不知子不知道、中腹の中の道、山の上の上の道の三本の道が通る狭い複雑な地形。中の道からの展望図
広重図
江漢図とよく似ているように見えるが、よく見るとかなり違っている。

●平板な冨士の表現ーこれなら実物を知らなくても描ける。
複雑な海岸線で岬がいくつも突き出ているのはウソ。
江漢図冨士山頂の形やしま模様までカシミールの映像とそっくりで、現地で快晴の冨士を見ない限り描けない。
●広重図は、立った岩を真横から描いている。
風景画の断面図(山と岩)は古今東西でも珍しい。
●江漢図は、横に寝た/岩の内側を通る下の道/岩の外側の波打ち際をほとんど真上から俯瞰している。
薩垂峠(興津側)の現地写真(小型カメラ)。右下波打ち際を俯瞰。          カシミール図
●最大の問題は富士ではなく、右下の部分である。

江漢図では右直下の海岸線(波打ち際)や岩の内側の下の道(「親不知子不知道」)がうまく表現されている。
これまでは、「江漢がオランダ式の高度な遠近法(多点消失法)をマスターして描いた風景画」とされ、あるいは逆に
「このような高度の遠近法は江戸時代にはなく、明治以降の作品−−したがって江漢のニセモノ」などと議論されていた。
さすがの広重も真似出来ず、「風景の断面図」という珍しい手法で何とか対応したらしい。

ところが現地で小型カメラで撮影したところ、上左図のように江漢図とまったく同じ構図の風景が右足下の波打ち際までうまく1枚の写真に収まることが分かり、まったく意外な発見であった。
「高度な遠近法」ではなく、江漢が「写真鏡(ドンケルカーモル)」を使って取り込んだ風景だったのである。
東海道名所図会「さった山−西倉沢茶屋」(部分)
東海道名所図会「さった山」部分
東海道名所図会は「真景」を期するために、地元の画家数名を起用し地区を割り振って地元の風景を描かせたという。そのためか、カシミール図と比較して驚くほど正確な風景が多い。この2枚はその代表例で、実際には足場が取れない中空から見た風景にもかかわらず、富士、愛鷹の方角や海岸の地形が正確である。
海岸線の岩、荒磯や松も多分この通りだったに違いない。
海岸に横たわる岩と松の木、岩と山の間を通る下の道、山の上から見おろす三人の旅人。アングルが違うが、江漢図と同じ地形である。 東海道名所図会が江漢図のモデルというよりも、当時の現地海岸の地形がこうだったのであろう。
●東海道名所図会では、海岸の親不知子不知道について、「この道は岩石多くして、高波寄せる故、容易に通り難し。」「くき崎というなる荒磯の岩のはざまを行き過ぎるほどに、おきつ風はげしきに打ち寄る浪もひまなければ、急ぐしほひのつたい道、甲斐なき心地して・・・心細し。(光行記)」
●明治になってから、山すそと海の間の狭い場所に鉄道と国道1号が敷かれたため、完全に整地され当時の地形はまったく分からなくなった。
      ◎明治13年 国道1号線開通    ◎明治22年 東海道線 神戸まで全線開通
明治20年頃の「ニセ江漢?」が現地を訪れても、昔の風景はすでに残っていなかったはずである。
参考図  薩垂峠からの眺めは,、観光案内でPRするようには、必ずしも「広重図そっくり」ではない。
由比町の自慢は、広重図そっくりの展望と桜えび

しかし
●冨士の右側は愛鷹山につながり、さらに箱根、伊豆の山々につながる。広重図のような水平線はない
海岸線は単純な直線なのに、広重図では岬がいくつも突き出ている。
●広重図は、冨士山と手前の山の位置関係が違う、、水平線があるのはおかしい・・・など現地を知らずに描いている

ある本では、「正直に山を描くと海がせせこましく見えるので、広重はわざと水平線を描いた」という広重に大変好意的な解説になっていた。

左:由比町のホームページ
現地カメラによる生映像が見られる。
由比のライブカメラ
パソコンからカメラの操作が出来る。

注意:現在の町名
は「由井」ではなく、「由比」

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写生場所
由井から薩垂峠までは、車で上れる。車道の終点にはミカン畑に囲まれて小公園があり、トイレ、駐車場(5台)の設備がある。
この小公園から「広重図そっくりの富士山と風景」が見られることになっており、ここで引き返す人が多い。

このあと、山道が続き、興津側に越えられるハイキング道になっている。
小公園から500mほど歩いた地点がちょうどトンネルの真上に当たり、山がもっとも海に迫った場所。(展望台あり。)
上図のように、山が重なり、足下から一挙に海岸の波打ち際まで見下ろせる。江漢図はこの地点からのスケッチで、よく見ると右足下に海岸に寄せる白い波が描いてある。小公園の駐車場でとどまらず、ぜひここまで足を伸ばしていただきたい。           
                       由井案内図
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