「大黒天」の謎解き                                       まとめ目次へ   
青面金剛とは無関係だが、マハーカーラとは関係が大きいので、ついでに触れておく。
大黒天の謎
大黒天(マハーカーラ)の研究書は多いが、本来「戦いの神」であったはずの怖しい大黒天が、いつの間にか「福の神」に変わったことが、最大の謎とされている。

「日本に入ってから大国主命のダイコクと結びついて・・福の神に変わった」と書いてある本があれば、それは間違いである。日本に入る前、唐の時代にすでに中国で台所の神として祀られていたことが記録されている。

戦いの神マハーカーラ(大黒天)

福神 大黒天
「戦いの神」だったマハーカーラが、何故「福の神」大黒天に変わったのか?

これまでの大黒天研究は、説明出来ないままであった。

チベットのマハーカーラ
チベット寺院に残るマハーカーラには、「シヴァ夫妻」を踏むものと「象の神ガネーシャ」を踏むものと2種類がある。ガネーシャはヒンズー教の神だが、インド人全体からマスコットとして愛されている「福の神」である。
    
「シヴァやガネーシャを踏む」には「ヒンズー教の神ではない」ことを示す意味の他に「踏みつけた神に取って代わる」という重要な意味がある。
「シヴァを踏むマハーカーラ」は「仏教においてシヴァの役割をする神」=「仏教の将軍」を意味し、「福の神ガネーシャを踏むマハーカーラ」=「仏教における福の神」を意味する。
もともとマハーカーラには、「戦の神」と「福の神」の2種類があった。
「戦いの神」が途中で「福の神」に変わったのではない。名前が同じなので、中国に入ってから混同しただけである。
以上で「大黒天研究最大の謎」が解けたことになる。

シヴァ夫妻を踏むマハーカーラ

ガネーシャを踏むマハーカーラ

   福の神 ガネーシャ
チベットには、75種のマハーカーラがあると言われる。それだけ種類があると言うことは、「マハーカーラ」は固有名詞ではなく、「明王」「菩薩」と言ったグループ名であるが、それを固有名詞的に考えて、混同したミスである。

「戦いの神」マハーカーラは、より強い神を求めて、次々にモデルチェンジされたのに対して、「福の神」マハーカーラは、最初のモデルがそのまま使われた。
青面金剛の姿そっくりとされたのは、象神ガネーシャを踏む「福の神」マハーカーラの方で、チベット寺院の壁画にも蒙古の壁掛け(織物)にもまったく同じ姿で、今でもいたる所に登場する。
  
それにしてもマハーカーラを「大黒天」と訳したのは合点がいかない。「天」は仏教以外の神が、仏教に帰依して仏教に奉仕するようになった場合の呼称であり、れっきとした仏教の大将軍を「天」と呼ぶのはおかしい。「マハーカーラ」は「暗黒の大王」という意味らしい。
調べて見たところ、最古の資料では「大黒尊」、次に古い資料では「大黒神」となっている。「尊」「神」ならよかったのに、いつの間にかそれが「大黒天」にされてしまった。
 
マハーカーラと明王
マハーカーラは、「明王」の原型であるが、「明王」と訳しても別に問題はなかったと思う。チベット仏教の研究家は、チベットには明王はまだなかったというが、マハーカーラこそが明王そのものである。
明治時代に鎖国状態だったチベットに潜入して、僧侶として布教していた河口慧海の著作ではマハーカーラを「金剛明王」と呼んでいる。
京都醍醐寺の降三世明王(下左)は、「福の神」マハーカーラ(下右)とポーズ/持ち物/背景の火焔まで瓜二つである。

同じ仏像について(チベットにはまだ明王がなかったから)「明王」とは呼べないというのは、「太平洋のクジラはほ乳類だが、(インドの学問はそこまで進んでいないので)インド洋のクジラは魚類である」というのと同じで、かえって混乱する。
 

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