マハーカーラの謎1 マハーカーラと明王                 マハーカーラ小目次へ
中国・日本の仏教経典に、マハーカーラという目立たない神様がおり、胎蔵界曼陀羅では最外郭(天部)の左上隅にひっそり描かれている。羊と人を吊り下げた怖ろしい姿の神である。
    
       マハーカーラ(大黒天)              胎蔵界曼陀羅(部分)左上隅             胎蔵界曼陀羅
胎蔵界曼陀羅
青色憤怒形三面6胥、青蛇を以て腕飾とし、ドクロを以て首飾とし、火炎髪あり。三目にして双牙出で、右大一手には剣をとり膝上に横たえ、左手を以てその刀を握り、右第二手には餓鬼の頭髪を以て提げ、左二手に羊の両角を以て提げ、左右第三手にて生臭き象皮を背に張り覆う形なり。
慧琳音義 唐時代の仏教語辞典
八手にして身青黒雲色。二手は一の三叉戟を把り、右二手は青羊、左二手は餓鬼の頭髪、右三手は剣、左三手はドクロ幢(ガタバンガ)を把る。
後の二手は肩の上に一の白象皮を張りて被るが如くす。毒蛇を以てドクロを貫きてヨウラクとし、虎牙を出し、大憤怒の形なり。足下に地神天女あり。両手をもって足を承く
インドの密教や直輸入したチベット仏教では、マハーカーラが非常に重要な役をしており、種類も多く、チベットには75種のマハーカーラがあると言われている。
ところが、中国・日本の仏教では、マハーカーラが一体何の神様か、よく分からないくらい影が薄くなっている。
 
マハーカーラは、ヒンズー教の最強神シヴァ神に対抗するために仏教側で作った神様であり、いわば仏教の大将軍である。
そのデザインは、シヴァ神の姿をそっくり借用し、ヒンズーの神ではなく仏教の神であることの識別として、シヴァ神などヒンズー教の神を踏みつける(征伐する)姿にした。

★ヒンズー教など他の宗教から仏教へ転向した神様が「」である。
  マハーカーラを大黒天と呼んだり、「天部」に置いたりするのはおかしいのである。

★仏教で作った神様は「明王」と呼ぶことになっている。明王なら菩薩と同格で曼陀羅の中心部に居るべき神様である。
 明王
にも謎があると言われていた。その姿/持ち物/装飾品などから明らかにインド出身の神であるにもかかわらず、 インドでの出生が不明で原点がたどれないのである。
マハーカーラはインド仏教では重要な役割をしているのに、中国・日本の仏教では影が薄い。すなわち後半人生が不明である。一方、明王はインド出身であることは確かなのにインドでの消息がたどれない。すなわち前半人生が不明である。

謎の答えははっきりしているように思われる。中国に入ったあと、マハーカーラは「明王」と呼び名が変わった
それを知らないまま素性を辿ろうとするため、マハーカーラの後半/明王の前半がよく分からないのである。
大畠の仮説
@マハーカーラはシヴァに対抗するために作られた仏教の神であり、シヴァの姿や持ち物をそっくり借用した。  
Aマハーカーラは「明王」と同義である。言いかえれば、明王はマハーカーラの訳語である。

次の3枚の図でそれがが完全に証明されていると思われる。下図を見ればA→B→Cの流れが一目瞭然である。
とくに、は、火焔/全体ポーズ/足下にヒンズーの神を踏むなどそっくりである

    A.モデルとなったシヴァ像          B.チベット寺院のマハーカーラ        C.京都醍醐寺の降三世明王
名前が「明王」に変わったことを知らなかったので、中国・日本ではマハーカーラの実体がなくなった。
しかしマハーカーラの名前だけが残り、研究の対象になったことから、「墓場荒らしの小鬼を懲らしめる墓場番人」など正体の分からない謎の神様になってしまった。

仏教の大将軍墓場のガードマンに格下げされてしまったことになる。
白牛を羊に見誤ったため、吊り下げられている痩せた餓鬼の正体(実はシヴァ神)がわからなくなったのである。

              
※大日経疏・・・唐の玄宗皇帝の時代にインドの密教が始めて中国に移入され、大日経が中国語訳されたときの講義録
          ここですでに間違いが起きている。
茶吉尼天:人黄(人の心臓)を喰う薬叉にして、神通力を有し、6ヶ月前の人の死期を知るという。
大黒天:彼、茶吉尼天を除かんと欲するが故に、化して大黒天となり、・・・諸々の茶吉尼を召してこれを呵責す。汝常に人を喫するが故に、我今、汝を食すべしと、すなわちこれを呑飲す、伏して彼を死なしめずこれを放ち、ことごとく肉を断しむ・・・
マハーカーラを正しく理解するためには、日本の仏教だけでなく、ヒンズー教、チベット仏教を含めた「インド宗教」の総合的な知識が必要である。「総合的なインド宗教」の第一人者は中村元博士であるが、中村元著「図解仏教語大辞典」でも「マハーカーラは、シヴァ神の怖ろしい形態を表す憤怒神で、インド・チベットでは非常に尊崇された・・・」「シヴァ神の形態の一つ」となっており、中村博士でさえマハーカーラを理解していなかったことを示す。
マハーカーラに征伐されているのがシヴァ神であることが分かれば、マハーカーラがシヴァの化身だとかシヴァの眷属だとかという話は絶対出てこないはずである。 シヴァが、シヴァ自身を征伐していることになってしまう!
千年以上の長い間、誰一人基本的なミスに気が付かなかったということである。

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