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「日本の石仏」 2005年春号巻頭随想
石仏研究資料の保存・活用を考えよう  一後に続く人のために    -会長坂口和子

・・・さて新年度早々ですが、副会長宮島潤子氏の計報をお知らせしなければなりません。・・・

常々思っていることですが、石仏研究に数々の実績をおもちの会員さんが不幸にして他界されますと、そわまでの調査や研究がそこでストップしてしまう。貴重な資料類も散逸してしまうことが多いようです直今までの経験からいつもやり切れない想いを抱くことがしばしばありました。あとに残ったご家族とのかかわりもあり、第三者が口をはさむ問題ではないだけに、本当に残念なことがあります。理想をいえば協会がお引受け保管するのがベターなのでしょうが、現実にその力がないのでは仕方ありません。

調査の資料や書籍類、写真、ビデオ、原稿など、この会の会員さんはきっとお持ちになっていらっしゃると思います。これらをどのように整理、保存しておくのがよろしいのか、お考えになっていただきたいと思います。現在はパソコンを駆使してすべて入力されている方もおいでです。あとはそれらをどのように活用するか、の問題がのこりますが。

人によっては、"石仏調査は生きている間の趣味にすぎない日石仏を充分楽ししんだのならそれでいいではないか、遺すものなど何もない〃といわれます。趣味とはそういうものと割り切ればそれまでですが、その方が沢山の調査資料をお持ちの時など余りにも勿体ないという思いがいたします壇これから石仏を始める方に活用してもらえれば先に進むこともあるのでは、と。

それにはやはり整理が肝要で、たとえ手書きであっても、きちんとした形にしておくことが望ましいのです衙大げさではなくこれは協会の財産といってもいいでしょう。会員さんひとりひとりが、それぞれの調査資料を持っていて、全部を集めることができれば日本の石仏地図が描けるという可能性はありそうですから、そんな夢をもって個人の資料を大切にし、そしてそれを活用することを考えたいものです。

石仏研究にいちばん必要なのは基礎調査の資料ですから、そしてその貴重な資料はひとり占めするのではなく、同好の方々に開放する広い心を持ちたいものです。活字にしてのこすという意味でも、「日本の石仏」をぜひご活用ください。

本誌は国立図書館にも収蔵されておりますから、多分なくなることはないと思います屈以前にご紹介したことがある長野県の会員岡村知彦さんは、佐久地方の悉皆調査十巻の私家版をつくられて国会図書館と公立機関に寄贈されておりますが、この方法は多くの方が利用できる優れた選択だと思います。石仏資料の保存、活用について良い案がありましたらぜひご発表ください。

以下大畠意見
巻頭随想「石仏資料の保存・活用に付いて考えよう」についての意見(レター)    2005/5月20日 大畠洋一

たまたま同じ号の会員の広場に「石仏ライブラリ」として投稿しています。
会長の「よい案があったら・・」に対する答えの一つと思います。(CD同封)
CDとほぼ同じ内容(石仏アルバムを除く)をホームページにも載せ、3月から石仏協会のホームページからリンクして頂いています。

小生は、数年前から「石仏資料のパソコン化と活用」を研究課題 とし、いろいろな試みをやってきました。会員の広場にもときどき投稿しているのですが、読者からの反応は今一つです。「CDをください」という人は多いのですが、「どうやって作るのか教えて欲しい」とか「真似をして作ってみたのでCDを送ります」とかの反応はまだ少ないようです。作り方まで含めた詳しい内容は長くなりすぎて、雑誌には載せにくいことも原因の一つです。

2001/冬号 パソコンによる石仏写真の整理と活用  電子アルバム
2002/秋号 パソコン版「日本の石仏」索引 Excelの一覧表
2005/春号 石仏ライブラリ(ホームページ紹介) ホームページ型ファイル

2001年時点では、デジカメはまだ高価で高値の花でしたが、今やデジカメ全盛の時代になっています。当時はまだハードディスクのメモリ容量が小さく、パソコンが満杯にならないよう恐る恐る写真を入れていたのですが、今では生涯かかっても使い切れないくらい大きなメモリになり、写真の保存どころではなく、動画やビデオまでパソコンに入れる時代になっています。
当時はCDのコピーは、時間もかかり、失敗も多かったのですが、最近はごく簡単に出来るようになりました。パソコンの進歩のスピードは恐ろしいほどです。

投稿という形では、詳しい説明は無理と思うので、小生の基本的な考え方についてのやや詳しい資料と巻頭言に対する意見をお送りしておきます。

個人プレーではなく、ある程度の統一したテクニックにしたがって各人の資料を整理する方が、巻頭言の目的達成にも有効と思います。

巻頭言への感想
小生も七〇才になり、後世に何を残すかを本気で考える年代になりました。「パソコン屋」の立場および「そろそろ引退→後世への引継をどうする?」の立場からの意見です。

1)「亡くなった場合の後輩への情報提供・・」という視点で書かれていますが、現役の研究者同士の情報交換についても、テクニック的には同じことです。現役時代に情報交換をしっかりやっておけば、死んだ後のことは何も気にする必要がありません。現役/隠退時の両方含めて議論することにします。

2)「・・生きている間の趣味に過ぎない・・ 遺すものなどない」について、
石仏以外の分野も含めて、小生も最近そんな心境になることがあります。なおざりなのではなく、後世に遺す方法を本気でいろいろ模索したが、思うように行かず、自分の人生を後世に伝えることなど所詮無理な話というあきらめの境地になっての発言と思います。それともう一つ70を越すと、気力というか「面倒くさく」なりがちです。

3)「貴重な資料を独り占めにせず・・解放する広い心を持ちたい・・」について
研究者は誰でも、自分の研究成果を人に開放し広く利用してもらいたいという本能的な願望を持っています。それがなかなか旨く行かないことが問題で、「心の持ち方」の問題ではなく、テクニックだけの問題と思います。

4)「パソコンに入力している人は多いが、(活用している人はまだ少ない)」というニュアンスのように読みましたが、最近のホームページには、石仏資料として立派なものがあります。
目に留まったものの中では、小林氏の「国東半島の庚申」が最高の出来です。私のホームページやCDも(内容はともかく)書式としてはまんざらではないと思っています。
各人が自分でゼロから考えるのは大変ですが、よく出来た書式を真似して内容だけ自分の研究を入れるのは比較的簡単なはずです。

ホームページは、当初は、会社/組織/個人のPR用のパンフレット程度と考えられていました。JRのホームページでは、「とくとく切符」の一覧表を載せたあと、「詳しいことは駅の窓口で聞いてください」とあります。ホームページ=パンフレットの代表です。
しかし最近は逆に「詳しいことはホームページを見てください」というケースが多くなってきました。パソコンやソフトの分厚い使用説明書がなくなって1−2ページになり、詳しいことはパソコン画面やメーカーのホームページを見るようになっています。すなわちホームページがライブラリ化してきたのです。
私のホームページ/CDの「石仏ライブラリ」の名称は、それを踏まえたものです。

横浜市立図書館の図書はインターネットで検索できます。バス会社のホームページでは路線図/料金表のほか、バス停毎の時刻表まで調べられます。「医学百科」が引けるホームページもあります。

石仏研究者が必要としている石仏資料は、印刷物にすると膨大ですが、パソコン化するとホームページに載せられる程度のことが多いのです。そうであれば、巻頭言で指摘された問題はほとんど解決します。

各人が一定の書式で自分のホームページに資料を掲載し、資料が欲しい人は自分のパソコンからそれを閲覧する。石仏協会のホームページでは、各ホームページの一覧表だけを載せ、リンクしておくだけですから、管理の手間も大してかかりません。システム走り始めれば、ホームページを持たない人の石仏資料を集めた「石仏資料集」ホームページも必ず誰かがボランチアで作ってくれます。

生涯の石仏研究の締めくくりとして定価1万円の「石仏豪華写真集」の出版出来る人は限られており、さらにそれを購入できる人も限られますが、それとほぼ同じ内容がCDの電子アルバム(実費80円、郵送料を入れて200円))で達成できるとしたら、−−−それがこれからの情報交換の中心になるべきです。

自費出版だと人生の最後の一度だけということになりがちですが、CDやFDなら働き盛りの時期に一度まとめて、他の人の反響を聞き、自分でも問題点が整理できて、その後の研究活動に役立たせることが出来るのが、大きな違いです。

「10年一昔」→「2年で一昔」
世の中の進歩が早くなり、「10年一昔」の諺は死語になりつつあるが、パソコンの世界はとくに極端で、「2年で一昔」。
4年前に書いた原稿は全面改定が必要だった。

本件に関係したパソコン界の4年間の大きな変化を拾うと
「デジカメはまだ未完成で、価格的にも高嶺の花」−−→「デジカメが普及し過ぎて売れ行きが落ちかけている。一番安い300画素のデジカメで充分間に合う。」
「ホームページは伝送時間が遅いのがネックで大きな写真が送れない」−−→「ブロードバンド(ADSL)の普及でスピードアップ、かなり大きな写真でも使えるようになった。」
「パソコンに写真を入れる場合、メモリ容量不足に細心の注意が必要」−−→「メモリが10倍以上になり、写真を入れるだけでは使い切れないほど充分、メモリを気にせず無雑作に使って良い。」
電子図書館構想
市販されている一番小さな安い外付けハードディスクは、128GB/¥12,000。
サイズは中型の英和辞典(ドカベン)程度だが、CD180枚分の容量がある。
大畠の例では、10数年の研究成果(石仏以外も含む)は、大量の写真や画像資料も含めて、CD1枚に収まる。
「日本の石仏」誌1〜100号はCD3枚の収まった。

以上から考えて、「石仏図書室」は、この128GBのハードディスクに収まってしまう。
図書室は日本に1ヶ所作るのがやっとだろうが、ハードディスクならコピーは簡単で、全国各地に電子図書館の拠点が作れる。
資料の貸し出しはすべて「電子コピー」だから、資料の逸散/紛失の恐れはなく、「返却/催促」の事務も不要。
(一挙に図書館を作る必要はない。とりあえず個人のホームページを収集。リンクや目次でつないでいけばよい。)
「光陰矢の如し」
「今後の検討課題」などと悠長なことをいっている間に、10年−20年は何もしないまま、すぐ経ってしまい、研究者はどんどん老いて、貴重な資料が消えていきます。
石仏だけに限りませんが、パソコン業界の早すぎる進歩と対照的に、パソコン利用側の遅れは「いらいら」の段階を通り越して「諦め」の境地になりかけています。
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