★鎌倉時代に、鎌倉に異変があったとき、各地の武士団が駈け参じるための軍事道路すなわち「いざ鎌倉」の道が本来の鎌倉道である。
京都と鎌倉を結ぶ道のほか、横浜付近では「上の道（瀬谷経由）」「中の道（鶴ヶ峰経由）」「下の道（保土ヶ谷経由）」の３本の道が、鎌倉を中心に放射状に伸びていた。
★鎌倉幕府が滅びたあとも、新たな公道が設定されないまま、鎌倉道は人々のための主幹道路として利用され、この状態が江戸時代になって東海道が設定されるまで４００年にわたって続いた。
この二つを合わせたものが、「鎌倉古道」として研究の対象とする。武蔵国風土記稿で「鎌倉古道」と言う場合も、同じ定義であり、研究者もそれにしたがっている。

２）鎌倉道の名称が「鎌倉へ行く道」の意味をはずれ、「主街道」「公道」のニュアンスで使われる例があるらしい。芳賀氏によると北条氏の小田原へ行く道や太田道潅の江戸へ行く道までが「鎌倉道」の名で呼ばれていることがあるとのことである。
しかし、そこまで鎌倉道の定義を拡げるとますます混乱するので、芳賀氏のご意見通り、原則として鎌倉道から除外して考えるべきであろう。
ただし戸塚付近の旧東海道コースが江戸以前に「鎌倉道」と呼ばれた形跡があるなど、何とか鎌倉につながる道の場合は「鎌倉道」としてもいいであろう。

古道の研究に当たって「鎌倉道」はその８０％を占める。「鎌倉道」と名の付くものをすべて削除した「古道の研究」は抜け殻のようなものである。
上記の横浜市教育委員会のコメントは「幕府には鎌倉幕府、足利幕府、室町幕府、徳川幕府、江戸幕府といろいろあり、名前も場所も複雑なのでこの「日本の歴史」では「幕府」の記述を一切削除した」と言っているのと同じように感じる。
ややこしいからと言って「鎌倉道」を除外した古道研究はあり得ない。

★「横浜の古道」では、その後「近世の古道（江戸時代の古道）」という断り書きを入れているようであるが、それにしても上記のように「江戸時代の鎌倉道」（例えば戸塚吉田橋からの鎌倉道、上大岡駅前を通る鎌倉街道）が一切出てこない訳で、まことに奇妙な古道研究である。